川連塗り工房代表 佐藤幸一さんと初めて出会ったのは、今から1年半前。
毎年10月に川連町稲川体育館で行われる”川連塗りフェアー”においてでした。 大きな体育館の中に入ると、それはそれは沢山の工房が所狭しと漆器の商品を並べていました。あれもこれもと目移りして、ゆっくり楽しみながら回っていったなかで、寿次郎さんのブースに行きあたりました。 普段使いが基本の川連漆器は、華やかというより重厚な感じがするのですが、その中でも『川連塗り 寿次郎』のスペースは、存在感のあるオーラを放っていました。その時の写真がこれです。 その後、気持ちを落ち着かせるためにぐるぐると会場を回った後で、思い切ってそこにいらっしゃった店主の方に、お取り引きしていただけないかと声をかけてみることにしました。 長身、黒いスーツに蝶ネクタイ姿のダンディーな男性。その方が代表の佐藤幸一さんでした。 若輩者の私は、すぐには声をかけられず、近くにいらっしゃった奥様・・・この方がまた女優さんのように綺麗な方なのですが・・・にまずはお声をかけることにしました。すると奥様はとても気さくに優しく「大丈夫、声かけてみたら?」とおっしゃってくれたのです。 そして、どぎまぎしつつ汗をかきながら、何とか何とかお願いして、お取り引きを始めさせていただくことになったのです。 「伝統工芸」の史幸さんに対して、幸一さんの作品は「クラフト」。重厚感、存在感のある「伝統工芸」に対比させれば、「クラフト」という言葉には、明るい斬新なイメージが漂います。 もちろん「産地」の工房にお生まれの方ですから、代々伝わる技を先代から受け継ぎ、それを磨きつつ、伝統工芸に新たな風を吹き込んきたことでしょう。新たなデザインが求められる高度経済成長期からバブルにかけての時代背景もあったと思います。 幸一さんは、20代後半に日本クラフトデザイン協会の日本クラフト展に入選してから、30回近くも入選されていらっしゃいます。 同時に長年秋田県クラフト協会のリーダーとして活動し、同世代や若手のクラフトマンとともに秋田県にクラフトの文化を根付かせてきた方です。 昔作られたトレー。〇△□の溝が彫ってあり、そこに食べ物や器をのせられる楽しいお盆。黒地の盆に形の部分は濃いグリーンに深い青、紫の色合いで、漆器を超えたデザイン。これを製作した頃は、受け入れられなかったけれど、今は「素敵!」と言ってもらえるようになったそうです。20年以上前、お盆に溝があったり、お盆に食べ物を載せるというのは、確かになかったですね。 日本クラフトデザイン協会は、現在も存続し、日本クラフト展は今も毎年開催されていますが、クラフトセンタージャパンは、丸善がスポンサーを撤退した後、解散したそうです(1960年~2015)。解散したクラフトセンタージャパンのサイトに以下の文章が載っていました。クラフトとは何かを知る文章だと思い、転記させていただきました。 『その時代に、世界に誇れる日本の伝統的手技で、新しい時代にふさわしい機能的で美しい暮らしの道具を創り出そうと考えた工芸家やデザイナーがいた。 一方で、まだ見るべき工業製品のなかった日本の、唯一の輸出産業としてレベルの高い工芸品産業を育てたいと考える行政関係者がいた。 クラフト・センター・ジャパンは、この両者の情熱がドッキングしたところからスタートしたと考えられる。 クラフトという聞き慣れない言葉には、これまでとは違う新しい暮らしの道具を作るという意気込みが込められている。』クラフトセンタージャパン 冒頭の写真上の方に載っている花型の飾りでもあり、皿にもなる作品。また私もお取り扱いしているお重箱。 「クラフト」と呼ばれるモダンな漆器ですね。3段のお重を1段ずつを取る溝には小さいですが、金色の半月が塗られていますよ。 「寿次郎」のパンフレットに載せていらっしゃるメッセージがとても素晴らしいので、このブログに再度掲載させていただきます。自らを「つくり手」と称する謙虚な姿勢に心打たれるものがあります。 ◆作り手 佐藤 幸一さんからのメッセージ(「寿次郎」パンフレットより) 『暮しと育むふだんの漆』 寿次郎は明治初期に創業したのち、代々変わらず不易流行の器をつくり続け、職人でもなく作家でもなく、ただの「つくり手」。そのように自らを定め、製造から販売にいたるまで一貫してかかわっています。原材料すべてに天然素材を用い、現在もすべての工程を手作業で行っていますので、小さなお子さまも安心してお使いいただくことができます。 川連塗の美しさに触れていただける代表的技法は、花塗り。上塗り後、磨かずに仕上げ、漆本来のなめらかでしっとりとした肌に仕上げます。お手入れはごくふつうに優しく扱っていただければ結構です。長く使ううちに、割れ、欠け、剥げなどが生じた場合でも、新品と同じ状態にお直しすることが可能です。天然木を加工しているため、使用方法によっては多少の歪みなどが生じるおそれがありますが、5年、10年と、ふつうに優しく使ううちに、成長とも言える色と艶、その経年変化をお楽しみいただけたら、つくり手として嬉しく思います。 最後になりますが、「伝統工芸」と呼ばれるご長男史幸さんのお重箱も載せますね。川連塗りフェアーで撮ってきたものです。重厚感伝わりましたか?
by fukidayori
| 2016-03-24 17:51
| 秋田 川連塗り 寿次郎
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